Prologue 白い森
プロローグ : Wood ウッドの話 / 種族 : ワーク族
ある世界に何処を見ても真っ白な森があった。
この森に住む住人は一人だけ、名前は「ウッド」と言う。
父と母と家族3人で暮らしていたが、
ちょうど、2 日前に、ふたりとも姿を消してしまった。
何百年か前までは村人がいたが、今はもう、いない。
家具を作るのがウッドの仕事だった。
家具作りは難しく椅子を一つ作るのに 30 年はかかる。
作り方は、父が教えてくれた。
ウッドの父親は沢山の事を教えてくれた。
しかしウッドが直ぐに忘れてしまうので、
何度も教えてくれたのだった。
父は少し離れた作業場で、いつも仕事をしていた。
何の仕事をしていたかは分からない。
母は働き者でいつも動きっぱなし。
ご飯作りにいつも 3 日もかけて
美味しいご飯を作ってくれた。
いろんな表情のある素敵な母だった。
森には不思議な生き物がいる。
名前を「ピューリ」と言う。
自由気ままに漂うピューリたち。
特に害もないため、気に留めた事もない。
しかし何故か一匹だけ子供の頃から
ウッドの傍を離れないピ ューリがいた。
ーーーーーある日の事、
いつも傍にいたピューリがいない事に気が付いた。
いつもは気にもとめない存在だったが
何故か少し気になって、探してみる事にした。
しばらく歩いていると父の仕事場が見えてきた。
立派な巨木の下にある、真四角な箱の建物。
父の仕事場にウッドは入った事がなかった。
この中にピューリがいるかもしれない。
何故かそう思って中に入ろうとしたのだが、
ドアが開かない。
鍵らしき穴もなくどうすれば入れるやら?
特に悩みもせず、ウッドは直ぐに諦めた。
家に帰るとピューリがいた。
変わった様子もなくフワフワと浮いている。
次の日の朝になると、またピューリがいない、、、。
何処に行ったんだろう?
気になったウッドはまた探しに行った。
父の仕事場の方へ向かうと、ピューリがいた。
ーーーーしかし、なんだかいつもと様子が違う。
身体を奇妙にくねらせている。
ウッドは、黙ってピューリを眺めていた。
するとピューリは近くの木の実に身体を打ち付けた。
木の実は「カラン」と乾いた音をたてた。
ピューリは違う木の実に身体を打ち付けた。
木の実は「ポロン」と優しい音をたてた。
ピューリは次々に木の実に身体を打ち付け、
色んな音が鳴り響いた。
ウッドはそんなピューリが、
音楽に合わせて踊っている様に見え、
なんだか心が高鳴ってきたーーーその時
ガチャ
仕事場のドアが突然、開いた。
ウッドが父の仕事場に入るのは初めてのこと。
部屋に入ると、そこには沢山の本があった。
ウッドは字の読み書きは父に教えてもらっていたが、
本を読んだ事がなかった。
ふとテーブルに目を移すと、
一冊の大きな本とウッドと書かれた手紙がおかれていた。
愛する息子 ウッドへ
私はこの世界に色を取り戻す研究をしていた。
昔、国の王がある世界の「負の煙」をこの村に集める契約を悪魔と結んでしまった。
負の煙の中では生き物は生きられない。 ある日、見知らぬ旅人がピューリを連れてきた。
ピューリは負の煙をすい込み生き物が生きていける環境にしてくれる。
しかしピューリのエサは生き物のアイディアや興味、感情や好奇心。
人々は考える事も楽しむ事もできなくなってしまった。
だからこの村も発展できずに滅びるのを待つだけだった。
私はこの村から抜け出す方法を探し一つの答えに辿り着いた。
それは「ページ」という。
ここではない別の世界に通じている不思議な扉。
この仕事部屋を巨木の下に作ったのは不思議な小川を発見したからだ。
その川にそって行けばその扉があるかもしれない。
そこにある本は旅人が置いていった本だ。
本の中に扉の鍵を作る錬金術が書かれていた。
「命ある者 血肉 創造 時間これらを愛と錬金すべし」
地下に舟がある。舟が認めてくれたら乗せてくれるだろう。
私やお母さんは歳をとりすぎてしまった。
お前がこの手紙に辿りつけたのならば、違う世界に希望がもてるだろう。
この本と船に乗るためのチケットをもっていけ。
私達ができるのはここまでだ。
楽しい人生を送るんだぞ。
父 シードより
ウッドは部屋を見渡した。
すると部屋の隅に小さなドアを見つけた。
ドアを開けると下に続く階段があった。
ウッドが階段を降りようとした時、
外のドアがトントンとなった。
カーテンをあけ小窓を覗くとそこにはピューリがいた。
一緒に行きたがっている様にみえた。
しかしウッドは自分のアイディアや
好奇心を食い物にしていたピューリが許せなかった。
ウッドはドアを開けずに地下へ向かった。
地下には細い川が流れ、そこに小さな小舟があった。
小舟の船尾には奇妙な枝が生えていた。
ウッドが近づくと、突然その枝が動き出し、
ウッドの持っているチケットを指差した。
慌ててウッドがチケットを差し出すと、
枝はチケットを突き刺した。
たちまちチケットは燃えだし、
舟の周りがぼんやりと明るくなった。
ウッドは乗り込もうと舟にまたがったが、
何故だろう、もう片方の足がどうにも動かない。
ーーーー何かを思ったウッドは
急いで上の部屋へ駆けあがり、
ピューリを連れて舟に乗り込んだ。
舟の側面には葉っぱがオールのようについており、
炎が少し強く燃え出すと同時に舟は動き始めた。
あたりは真っ暗だ。
後ろを振り向くと階段から差し込む光がうっすらと見えた。
しばらくその光を眺めていたがやがて見えなくなった。
黒。
ウッドにとって暗闇は初めての経験だ。
真っ白な世界しか知らなかったウッドは暗闇を楽しんだ。
舟の上は小さな炎がぼんやりと明かりを灯している。
なんて綺麗な色だろうと炎を眺めていた。
ーーーどれくらいの時間がたっただろうか。
ドコン。
船が何かにぶつかった衝撃でウッドは目を覚ました。
いつのまにか寝てしまっていたらし い。
辺りを見るが暗くて何も見えない。
しかしここは小川ではなく、
大きな湖にいるように感 じた。
船の炎は消えかけていた。どうやら着いたようだ。
後ろを振り向くと目の前にうっすら光る扉があった。
ーーーなんとも不思議なデザインの扉だ。
これが「ページ」なのだろうか。
ウッドは扉を開けようとしたが開かない。
するとピューリが扉の前で煙を吐き出した。
ガチャ。
ゆっくりと扉が開きだした。
扉の先から光が差し込み眩しくて何も見えない。
ウッドは扉の外に出た。そこは緑に溢れていた。
木々の間から光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえた。
そしてすべてに色があった。
ウッドは何も考えることができず
しばらく立ち尽くしていた。
息をする度に身体が浄化される様な気持ちになった。
少し落ち着きウッドは歩き出した。
少しすると森から抜け出した。
そこには辺り一面色のついた花があった。
ーーーーーーこんな世界があるなんて。
ウッドの心が再び高鳴った。
バサッ。
傍で何かが落ちた。
振り向くとピューリが地面に倒れていた。
驚いたウッドは、すぐにピューリを
手の平ですくい上げた。
ーーーしかし、ピューリは全く動かない。
ここに来て今までにない高揚感と共に、
凄まじい悲しみが込み上げてきた。
どうしていいか分からないウッドは、
ピューリを花畑に寝かせ、ずっと傍にいた。
この世界には、夜があり、朝が来る。
頭ではその光景に驚いていたが、
心がそれを許さなかった。
ーーーーー数日たったある日の朝、
突然ピューリの身体が動き出した。
驚いたウッドは飛び起きた。
するとピューリの身体から妖精が飛び出してきた。
妖精は口を開いてこう言った。
「ウッドありがとう。」
「あなたの心の高ぶりこそ、私が生まれ変わる為の唯一の方法だったの。
ウッドのお父さんとお母さんが私に愛をあたえてくれたから、あなたの傍で過ごす事ができた。
これからここで、新しい暮らしをはじめましょう。」
ーーーウッドの目から涙が溢れた。
感情の無い何百年を過ごしたウッドにとって、
産まれた時以来の涙だ。
「ウッド。私に名前をつけて。
名のある妖精は不思議な力を与えられるのよ。
きっと私達の力になってくれる。」
ウッドはしばらく考えて、こう言った。
「分かった。君の名前は「カラー」だ。
沢山の色で沢山の幸せを運んで来てくれる。」
それからウッドたちは家を作り、
二人でここに村を作ろうと、毎日せっせと働いた。
ウッドは今も旅人を待ち続け、
カラーは何故か、不思議な玉を作りつづけている。
ーーーお話はここまで。
さて、二人が作るこの場所。
名前はつけないみたい。
なんでかって?
誰にも知られたくないんだってさ。
おしまい。